六本木アートナイト Roppongi Art Night

日比野克彦が2人の若き美術家と語る、街と作品と、六本木アートナイト。

柴田祐輔(以下、柴田) 六本木アートナイトが魅力的なのは、都市のど真ん中でこんなに大人数に見てもらえるということ。前回の全プログラム延べ鑑賞者数が70万人以上ですよね。自分の個展ではまずありえない。しかも2日限り。僕の中にはまったくなかった要素だらけ。僕の作品がこの街をどう巻き込めるか、可能性に挑戦したかったですね。来た人をどれだけ裏切って、アート作品として、成立させるか。とにかくワクワクしました。

日比野克彦(以下、日比野) 柴田くんはクリーニング屋さんを舞台にするよね。

柴田 六本木の街のどこで展示するかという事前下見ツアーがあって、その場で即決しました(笑)

日比野 あのクリーニング屋さんは誰か展示場所にしないかなと僕も思ってたんだよ。

柴田 あそこのクリーニング屋さんは戦後から営まれているらしいのですが、とにかく魅力的で。実際に窓越しに職人さんが作業されている姿を見て、アナログな機械に囲まれて、白い綺麗なシャツと、職人さんが一生懸命やっている動きがすごくきれいなんですよね。六本木の街の歴史も含めて、あそこの面白さをクライマックスに持って行けるかという部分を一番考えました。そこで、キーワードとして考えたのが六本木=ディスコ。あの空間をディスコのように変えて、スモークを建物の中から外に焚いて、その中にボディコンのおねぇちゃんが踊って、その中で、クリーニングの機械が動いている。

日比野 それが、柴田くんが考える六本木なんだね。

柴田 はい。これから細かく詰めていくことがありますが、場所が最高にかっこいいのでうまくいくと思います。

日比野 鷺山くんはあの新聞社を使うんだよね。

鷺山啓輔(以下、鷺山) 芋洗坂にある水産経済新聞社を展示場所として選びました。会社の中に輪転機まであって、六本木で新聞を作って、刷っている。それだけでも面白いなあ、と思って。作品も新聞をできるかぎり素材にしていかしていきたいと思っています。新聞で作ったスクリーンに映像を投影したり、新聞で折り紙的な大き目な立体物を作ったり。街の中にある新聞社を意識しました。水に関する作品が多い僕の作風から考えても、水産経済新聞というのはぴったりだと思っています。

鷺山 福島から宮城に渡って流れている阿武隈川を追いかけていくロードムービーをつくります。震災以降、東北でカメラを回したことがなかったので、今回の六本木アートナイトのあり方と場所と僕の作品作りを考えると最適な題材だと思っています。

日比野 六本木アートナイトについて思うことはある?

鷺山 僕もやっぱり来場者数がすごく魅力的ですね。あと、一晩きりで燃え尽きてしまうイベントであること。瞬間的に六本木に集まって去っていくっていう、そのエネルギーの質量に興味を感じます。僕は映像の光を使った作品が多いので、日が落ちてから夜が明けるまでという機会はバッチリなんです(笑)

日比野 ふたりには場の力を最大限に引き出してほしいね。それこそアートポートのやりたいこと。美術の流れとしても、ホワイトキューブじゃない“場”でやるっていうのはひとつの大事な領域として評価されているし。クリーニング屋さんや新聞屋さんみたいな社会と連携することによって、アートがその街が持っているものを発掘するという機能になる。僕も80年代から街でアート表現をしてきたけど、今はきちんとアートの領域として認識されたうえで表現できるっていうのはいい時代になってきたなって思うよ。

鷺山啓輔

1977年生まれ。
武蔵野美術大学映像学科で、ドキュメンタリー、写真、アニメーションを学ぶ。卒業後、主に現代美術のフィールドで作品を制作し、国内外で展示、上映多数。主な作品に《柔らかい樹系図》2011、《明滅して刻画》2009、「B.V」シリーズ2005-2007、(フィルム・インスタレーションが中心)。東京を拠点に、映像作家として活動中。阿佐ヶ谷美術専門学校非常勤講師。

柴田祐輔

1980 年福岡県生まれ。
2007 年武蔵野美術大学大学院修了2011年度文化庁新進芸術家海外研修員。虚実の入り交じる現実への積極的な介入を試みる写真、映像や立体などを用いたインスタレーションを数多く制作、国内外で発表。主な個展に、2010年《仮定ビート》 Art Center Ongoing(吉祥寺)、2012年《棒読み》Latitude53(カナダ)、《ハウツー》 g-FAL+FAL(小平)などがある。現在Galeria Inmigrante(アルゼンチン)のメンバー。